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松下響の天輪返し

TS/TSFレビュー : 戦闘破壊学園ダンゲロス

こんばんは、TSキャラ兼TSFレビュアの松下です。
前回の第1回投稿記事は思いのほか沢山の方々に読んでいただき、本人めちゃめちゃ吃驚しております。やはり牛マンは神の遣いなのですね。皆様ありがとうございます。

さて、今回は何をやるかと申しますと、この際TS/TSF記事とレビュー記事の第1回を同時に消化してしまおうということで、取り出だしましたるは架神恭介(かがみきょうすけ)さんの商業初小説作品、「戦闘破壊学園ダンゲロス」です。
ええ、内容をご存じの方は「一回目からまた随分と極端なものを」と思われたかと存じます。何しろ架神さん自身が現役パンクロッカーの肩書を持っているだけあって、内容が凄まじくパンクスピリットに溢れているので、これが世間でTSF作品として扱われているかというと微妙なのですが、下のTSF要素概要を見ていただければお分かりの通り、やはり誰が見ても間違いなくTSF作品なのです。

というわけで今回がTS/TSFレビュー記事1発目となりますが、その前に評価の基準について詳しく、という方はTS/TSF記事概要レビュー記事概要をご覧ください。え、長い? この記事よりは短いよ!

基本情報

  • 戦闘破壊学園ダンゲロス
作品概要
作品名戦闘破壊学園ダンゲロス(せんとうはかいがくえんDANGEROUS)
著作架神恭介(かがみきょうすけ)
販売元講談社
レーベル講談社BOX
作品形式文芸、小説、ライトノベル
流通形態商業現物販売
原画(ひだり)
シナリオ架神恭介(かがみきょうすけ)
初出2011年2月2日
対象年齢青年向け
TSF要素概要
TSキャラの役主人公主人公の恋人レギュラー準レギュラー端役モブ
変化の方向女性化男性化
変化の方法単体変化
変化の持続性任意可逆
変化後の人格元のまま
視点同一型対面型
組み合わせ身体的異性身体的百合身体的薔薇
復元願望必然中庸
性的要素概要
状況自慰通常性交強姦輪姦多穴責め連続責め緊縛着衣筆おろし処女貫通
行為接吻フェラチオイラマチオ手淫ノーマルセックスアナルファック手コキぶっかけ顔射
体位立位
器具拘束具触手
衣装半裸下着学生服
残虐行為解体踏みつけ暴力流血殺害食人
性対象概要
種別人間
性別
立場知り合い同校親族仲間虜囚
容姿年齢幼い若い大人老練
貧乳美乳
人格ノーマル変態・淫乱強姦魔
装備品眼鏡
経験処女非処女経験豊富
相手概要
種別人間
性別
名前ありなし
ありなし
容貌美形普通醜悪不明
陰茎普通伸縮自在
人格変態・淫乱強姦魔サディスト残忍
経験童貞非童貞経験豊富

物語概要

一人に一つの特殊能力を持った「魔人」が存在する世界。
魔人は警察組織でも手に負えない社会の厄介者であり、中でもその魔人を多数集めた希望崎学園、またの名を「戦闘破壊学園ダンゲロス(DANGEROUS)」では、生徒会と番長グループの全面抗争であるハルマゲドンが始まろうとしていた。
希望崎学園に通う生徒である両性院男女(りょうせいいんおとめ)は、そのどちらにも属さない善良な隠れ魔人であったが、この抗争に幼馴染の天音沙希(あまねさき)が巻き込まれたことから、彼女を救うべく自らもその渦中へと飛び込んでいくこととなる。

ダンゲロスの独特な出自とスタンス

このダンゲロス、実は作者の架神さんが色々頑張って二次創作フリーということになっております。というかそれ以前に、本作に登場する半分以上のキャラが他の人が作ったものだったりします。
何故こんなことになってるのかと申しますと、ダンゲロス自体が元々は小説ではなくて、みんなで創作キャラを持ち寄って遊ぶテーブルトーク戦略ゲームなのです(→ wiki)。そのゲームルールを作ったのがほかならぬ架神さんで、ゲームの単なるリプレイではなくて一個の物語としてアレンジして作られたのが小説版のダンゲロス、というわけです。その片鱗が本書冒頭のキャラメイク部分に見受けられます。
なお、表紙にも書いてあります通り、これは講談社BOX新人賞Talents受賞作でもあり、より正確には受賞後に上記の様々な権利関係と表現と分量の調整を行った末に発売されたのが講談社BOX版の小説ダンゲロス、ということになります。

で、みんなで作ったものを出版することができるなら、逆に出版されたものやそれ以前のテーブルトークダンゲロスを元にして、より輪を広げてみんなで後腐れなく二次創作活動が出来るようにならないか、という発想(だったかどうかは定かではありませんが)で、二次創作フリーというスタンスが確立した模様です。作品内のみならず、作品外でも大変意欲的と言えましょう。
詳細が決まっているかどうかは定かではありませんが、今現在も月刊ダンゲロスという電子出版の企画が進行中の模様です。掲示板では「絶対に知っておきたいキャラ10選」という素敵な特集の企画が進行しており、ただでさえ個性豊かな魔人の中から10人を選んだだけあって、キャラ紹介だけで既にもうかなりカオスな状態です。この10人の中にひときわ異彩を放つ「禅僧」がエントリーされているのは、流石は過去に「もしリアルパンクロッカーが仏門に入ったら」を出版している架神さんと愉快な仲間と言ったところでしょうか。

物語の並行進行とそのボリューム

ストーリーは時系列順に進むのではなく、現在の時間を少し進めては次のエピソードで過去話をやって一人のキャラを掘り下げる、という順番で進んでいきます。ややもどかしいですが、ただ掘り下げるだけでなく多くの伏線情報を孕んでおり、場合によっては既存の情報による敵味方の概念がひっくり返るような事実がぽろっと出てくるので安易に読み流せません。

ダンゲロスのキャラは基本的にダンゲロスというテーブルトーク戦略ゲームのために生み出されたため、恨み崎Death子(うらみざきですこ)やあげはなど、能力だけ見ると本当に社会生活を送れるのか不安になるキャラも存在します。そういったキャラに対しては、やはりその能力ゆえに世間の鼻つまみ者になった過去があり、それを踏まえた上できちんと経緯があって両陣営に身を置いている、という説明がありまして、このフォローが出来ているのは素晴らしいと思いました。

一方で、物語概要では既に触れていますが、実は主人公は表紙で対決している番長・邪賢王ヒロシマ(じゃけんのうひろしま)と生徒会長・ド正義卓也(どせいぎたくや)のどちらでもなく、表紙に登場すらしていない両性院男女(りょうせいいんおとめ)です。しかし、普通に買って即読み始めると、序盤は場面や時間の頻繁な切り替わりに慣れないせいもあり、誰が主人公なのかなかなか掴めなかったりします(→キャラ紹介)。

あと一点、本書の厚みについて言及しておかなければいけないんですが、一冊で500ページを超えています。この厚みのためになかなか読み始めるタイミングが掴めず、数日放置した後でよりによって仕事の納期間際に読み始めて貫徹して読み終わったのは今となってはいい思い出です。この厚みでさえ内容が薄いということは全くなく、最初から最後まで濃厚なダンゲロスでした。

ダンゲロスの真骨頂、能力者同士のガチバトル

最善手を絞りつくす

ダンゲロスの最たる特徴にして長所は、ストーリー上の一切の都合を排除した能力者ガチバトルです。既存の例で挙げると、方向性としてはハンター×ハンターに似ていますが、それをさらに極端にした形と言えるかもしれません。何しろ防御力よりも攻撃力が大幅に勝る、殺す気満点のアタッカー連中がひしめき合う集団戦の中で、互いに最善手を繰り出し続けるので、一手読み違えると副将クラスの主要キャラですらあっさり即死します。
例えば「ルールに反したら睨んだだけで相手を即死させる」手ごわい魔人が敵勢力にいるとします。これにどう対処するかと言えば、ルールに抵触しないように行動する、ルールが成立しないようにルール自体を変える、睨まれないように視界を奪う、などの選択肢があります。逆にその魔人自身は、必要な状況でいつでも能力を発動できるように相手がルールに反しやすい状況を整え、場合によってはルール自体も都合よく改変しようとします。これらの可能性を全て考慮して選択されるのが「最善手」です。
こうしたあらゆる可能性を排除せず戦略・物語を成立させたのは、ダンゲロスがやり遂げた一つの功績と言ってよいでしょう。

魔人能力と直結する個性
  • その名も恨み崎Death子さんその名も恨み崎Death子さん

魔人各々には必ず一つずつの特殊能力が設定されており、その能力はそれぞれの魔人の過去の経験と想像力(=中二力)により生み出されたものであるため、これがそのままその魔人の個性、アイデンティティに直結しています。
ゆえに、大人数が立ちまわる集団戦の中でも、どの魔人がどんな能力を持っていて、どんなパーソナリティであるのかすぐに識別することができます。そもそも両性院男女(りょうせいいんおとめ)ド正義卓也(どせいぎたくや)一刀両断(いとりたち)恨み崎Death子(うらみざきですこ)など、名前-能力-パーソナリティが完全に三位一体になってしまっているキャラまで存在します。このネーミングセンス、現実にはあり得ませんが、それゆえになかなかのインパクトだと思います。

また、魔人能力にはハンター×ハンターでいうところの「制約と誓約」にも似た、「条件が厳しいほど効果や発動率、命中率が上がる」という特性があるため、これが一強状態を阻止している一方で、それぞれの勢力は必要な能力を必要なタイミングで確実に発動させるために条件を周到に整えたり、2人以上の連携を以て強力な攻撃パターンを作ったり、失敗の可能性を考慮して別プランを隠し持っていたりします。

手前味噌な話になりますが、そうなるとうちのAXS能力の設定は原理を体系化しすぎて複数能力所持にしたのがやっぱりまずかったかな、と今更反省してみたりしています。

「転校生」の介入とその対策

劇中には「転校生」と呼ばれる異次元の魔人が合計で5人登場します。彼らはゲームのパラメータでいうところの「攻撃」と「防御」の数値が∞であり、ダメージ値が「攻撃」-「防御」の減算で行われるダンゲロス世界では物理攻撃が一切通用せず、逆に転校生の攻撃を防ぐこともできません。いわば慣性の法則を無視した状態、と言い換えてもいいかもしれません。しかし逆に言うと通用しないのは物理攻撃であって、「条件を満たせば相手は即死する」などといった論理能力は普通に通用します。
そのため一見無敵の転校生も、特にリーダーのユキミは慎重に行動し、情報を集めつつ極力生徒会と番長グループの双方が潰し合うように介入していきます。新人転校生のムーにはやや若気の至りが見えますが、それでも何も考えていないわけではなく、リスクは高いが相応のリターンもある、といった行動をしています。
別次元と言えるほど強力無比ではあるものの決して不死身ではない転校生。第3勢力として存在する彼らの動向、そしてその対抗策も本作の緊張感の一端を担っていると言えるでしょう。

淫靡かつ残虐な描写で浮かび上がる狂気と悟りの世界

極限のガチバトルの一方で、ほぼ作者の趣味というか、モチベーションを保つのに必要らしいのですが、これ本当に年齢制限かけなくていいのかな、と心配になるほど性描写や残虐描写が多いです。この記事も果たして全年齢で出していいのかなと思ってしまいます。
具体的な数字を挙げると、例えば1ページで18回も「レイプ」という言葉が登場する強烈な場面があります。まあエッチなのはむしろ私の望むところなのですが、問題は私が苦手なグロ方面です。
作品中に(ひだり)さんによる挿絵が4枚あるのですが、このうち1枚は我らが邪賢王さんのTSシーン。これは必然です。しかし他の3枚は、「作者(の分身である魔人)を生きたままのこぎりで切断するシーン」「能力発動のためにいやいや死体の脳を食しているシーン」「能力封じのために目に針をぶっ刺しているシーン」という構成で、残虐回路フル稼働です。
しかもこれは著者の架神さんが依頼したんじゃなくて、担当編集の方が示した場面候補の中から挿絵担当の左さんがわざわざ残虐シーンを選んで描いたそうです。[1] まあ確かに普段こんな絵を描いてくれなんて依頼はないでしょうけれども。左さんの絵柄そのものは大好きなんですが、残虐成分が多すぎて大分辛かったです。

  • 「セックスは地上最強の格闘技」を体現する宇宙一のビッチ、鏡子さん「セックスは地上最強の格闘技」を体現する宇宙一のビッチ、鏡子さん

ただ、無意味にエロとグロにまみれているのかと言えば決してそういうわけでもありません。
例えば私の一番のお気に入りキャラは「多分宇宙一セックスが上手い」とされる「ぴちぴちビッチ」(※能力名)の鏡子さんなのですが、この人、敵に危害を与えるような行為は一切しないのです。じゃあどうするかと言えば、鏡を通して遠くの相手に性行為が出来るだけの能力と自前の性技を以てして相手を連続で絶頂に導き、次々に行動不能にさせるわけです。そうやって次々にコマが減らされるので、相手には主力級として警戒され、一方で仲間にはその博愛精神が受け入れられ、皆から愛されているという、ビッチの鑑のような人です。その風貌たるや、ぐるぐるメガネに三つ編みおさげ髪という地味の代名詞のようなものですが、どうやら「あらゆる相手を絶頂に導くのが目的であって、自身が着飾ることに意味はない」と達観してしまったらしく、ビッチも極めれば悟りに達するのだなあと思うと感慨深いものがありました。
1冊の作中でそれだけの思い入れを持ってしまっただけに、鏡子さんの退場の仕方には結構凹んだものです。

  • 公開処刑を女子高生と男子高生の自慰のおかずにされた架神さん公開処刑を女子高生と男子高生の自慰のおかずにされた架神さん

また、架神さん(の代理の魔人)が女子高生と男子高生の自慰のおかずにされながら公開処刑される、という非常に衝撃的で狂気に満ちたシーンが序盤にあるのですが、これには「他のキャラを酷い殺し方するからには自分は特にひどい死に方をせねばなるまい」というバランス的な意味があったらしく、更に「俺の処刑で女子高生が自慰してくれるなら耐えられる」→「いや待て、それではペナルティにならない、男も混ぜよう」という微妙なバランス取りをした結果、ダンゲロスを象徴するようなあの狂気のシチュエーションが出来上がったそうです。[1] うん、その価値判断は全然理解できないけど、心意気だけはよく分かったよ!

あと、この作品はどうやらライトノベルにカテゴライズされており、作風からして「どのへんが?」と思われるかもしれませんが、恐らくこの「ライト」は「気軽に読める」の方ではなくて、「命が軽い」という方の意味だと思います。そう考えると全く文句のつけようがないライトノベルです。

気になる点への些細な突っ込み

以下の部分に重要なネタバレを含むため、内容を非表示にしています。閲覧をご希望の方は、お手数ですが下の「内容を表示」ボタンをクリックしてご覧ください。

TSF作品としてどうなのか

  • TS大成功の邪賢王さん/邪賢王ちゃんTS大成功の邪賢王さん/邪賢王ちゃん

TSを戦略として組み込む、という発想からしてもう既存のTSF作品とは一線を画したパンクぶりなのですが、先のリストに挙げました通り、この作品では主人公からモブに至るまで、登場人物の半分以上がTSします。この規模もまた異常と言えましょう。しかしガチバトルが売りのダンゲロスのこと、TSさえすればみんなが美少女になれるなどという甘っちょろい特例を許すわけがなく、邪賢王さんや白金さんのようなごく少数の大成功例はあるものの、やはりがっかりなTSに現実の厳しさを思い知らされたキャラも多かったようです。

それはそうとTSF的に美味しいシチュエーションはあるのか、という問題なのですが、基本的にみんなバトルしてますので、要所でいくつかはあるものの、それよりも性技自体を武器にする鏡子さんの一人勝ち状態と言った感じです。
また、架神さん作品では一番最初に最も重要なことを述べて、それを何度も繰り返して、或いは少しずつ情報を付け足してインプリンティングするという手法がよく採られます。今回もその例に漏れず、最初に言ったことが一番重要だったりするので、TSFというよりむしろ架神さんの言うところの「世界で一番美しいもの」がメインなのでしょう。
というかその主張は実際には冒頭どころか普段から架神さん自身が口走ってるのですが。見方を変えれば、やりたいことをそのまんま主軸に据えてこのレベルの作品が出来てしまったわけで、もはや驚異的と言う他ありません。

邪賢王さんが邪賢王ちゃんになったところで「愛くるしい美少女が強烈な悪臭を放つ学ランを着ることで、そのギャップに多くの不良生徒が却って劣情を催した」という記述があり、これは私のTS価値観からすると全く理解の範囲を超えているのですが、それでも面白いと思ってしまったのはダンゲロスという狂気の世界観の賜物でしょう。

総評

全体的に残虐描写が厳しいものの、うっかり徹夜で最後まで読んでしまった以上は「めちゃめちゃ面白かった」と言わざるを得ません。万人に勧められるなどとは口が裂けても言えませんが、そもそもTSFのようなニッチな市場から見れば間口の狭さに大した差はありません。そんなことより個性満点の能力者同士が相手を殺す気で最善手を打ち続けるガチバトルを最後まで貫いたという点において、意欲的かつ挑戦的でパンクスピリットに溢れる一作だったと思います。
そのあたりを総合的に勘案しまして、以下の評点を奉納いたします。

満足度 896/1000

はい、大変美味しゅうございました。

…実は今頃になってブログを全力仕様で立ち上げたのは、戦闘破壊学園ダンゲロスの感想を書いて発表する場が欲しかった(※よそでやるのは制限文字数的に恐らく不可能)というのも理由の一つでして、それにしても少々気合いを入れ過ぎた気がしなくもありませんが、恐らくきっと気のせいです。

  1. 2011/3/09 the 男爵ディーノwebラジオ情報より [] []
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