徹夜でしょうか早起きでしょうか、兎に角おはようございます、松下です。
ブログ記事自体が随分久しぶりな気がしますが、今回の記事は作品中で断片的にしか世界観が明かされていない艦隊これくしょんのゲーム内容に勝手に辻褄を合わせて研究レポートのような体裁にした世界観設定考証的な何かです。アニメ版とゲーム版では既に幾つかの相違点が見受けられますので、こちらはゲーム版の方に準拠しています。
最初に身も蓋もないことを言っておきますと、同じようなアプローチでも既に公開されている某氏屋さんの艦これ漫画の方が作品として成立していて面白いので当方のものは半ばお蔵入りしていたんですが、一応解釈傾向の違いはありますので公開だけしておきます。
目次
更新履歴
- 2015/01/27 : 記事を公開しました。
特種害獣、いわゆる深海棲艦の脅威について
近年、海上・海中に出現する特種害獣、いわゆる深海棲艦によってもたらされる被害は深刻である。
深海棲艦は対話がおよそ不可能で人類に危害を与えるという意味では害獣で間違いないのだが、人間並みの大きさでありながら軍艦並みの射程・攻撃力・防御力・速力を持つ害獣など他に存在せず、猟師が熊を狩るのとはわけが違う。だからこそ深海棲艦という呼び名がついているのであり、脅威レベルとしては小型で自律行動を行う敵性軍艦、或いは海賊船と看做すのが妥当である。
深海棲艦は既存兵器による撃退が一応可能である。人間大で軍艦並みの防御力があるのは驚異的だが、裏を返せば軍艦を撃破できるだけの打撃を与えれば良いのだ。ただ軍艦を撃破できるだけの打撃ということは、こちらも対艦用武装を持ち出すか、広域殲滅兵器を使用する必要がある。つまり害獣退治としては桁違いにコストがかかるのが問題である。また、深海棲艦の攻撃に対しては既存の防御機構で迎撃防御はある程度可能なものの、やはりコストと補給の問題がある。
更に、深海棲艦はそのサイズや材質からレーダーやソナーに非常に映りにくい上に、よしんば映ったとしても人間や海洋生物との区別がつかない。これは軍艦での交戦時にも勿論問題だが、それ以上に一般船舶が遭遇を回避できないのが問題である。更にあちらのレーダーに相当する器官ではこちらの船舶を捕捉できる模様で、その範囲内を通ると一方的に襲われることになる。
このため、現在では一般船舶による交易や海洋資源獲得が困難化しているのが由々しき問題である。
以上を併せると、軍艦や海賊船レベルの脅威となる害獣が多数存在し、レーダーで捕捉できないためその実数や分布が把握できず、おまけに増殖する可能性すらあるので、ただでさえ交易に支障をきたしているのに軍備に後どれだけつぎ込めば解決に至るのが全く見通しが立たないという深刻な状況である。最悪の場合人間側が息切れして制海権を奪い返せなくなるという可能性すらある。
深海棲艦の生態と構造について
深海棲艦が一体何なのか、どこで生まれるのかについては未だに判明していない。ただし、かつての大戦で戦場となった海域に特に頻繁に出現することが知られている。
鹵獲した深海棲艦サンプルを調査した結果、深海棲艦は組成的には水と有機物を主体としているために生物と看做して差し支えないが、動力部とも言うべき器官とそれに連なる推進機関、物理障壁発生装置、艦砲や魚雷発射管に該当する器官が備わっている。自然界の進化と淘汰でこの構造に辿り着いたと結論付けるには少々無理があり、むしろ生物兵器であると言われた方がまだ納得できる。
しかし深海棲艦を制御する術は現在のところ見つかっておらず、各部器官を切り離した状態で機能を維持する方法も今のところ存在しない。
深海棲艦の組成物質と開発資材について
深海棲艦の研究を進めるうち、興味深い事実が判明した。深海棲艦は水分以外ほぼ単一の素材で構成されているということだ。金属のような部分も有機的な部分も同じ素材でありながら、その素材自体が振る舞いを変えることで全く違う物性を備えている。いわゆる物性記憶再現素材であると言える。現在までにこれと同様の特性を発揮する物質は他に見つかっておらず、この物性の記憶と再現という特性が常識外の防御力と破壊力に関わっているのは想像に難くない。[1]
我々はこの興味深い素材を深海棲艦に対抗する手段を研究開発するための礎とするため、まずは保管に適した金属状態の部分を集積して開発資材として管理することとした。
妖精について
深海棲艦が様々な物性を自己再現する特殊素材をベースにしていることは判明したものの、それをどう利用すれば軍艦並みの攻撃力や防御力を発揮できるようになるのかという答えにたどり着くまでには、我々が解明しなければならない要素はまだまだ多かった。
我々研究班が開発資材の特性研究に没頭していたある日、全くの偶然からとんでもないものが出来てしまった。それは手乗りサイズの小人状の知性体、後に妖精と呼ばれるようになるものである。妖精は人間との意思疎通が可能だった。我々の目的は新生物を作ることではなかったはずだが、一体どこでどう間違ってこうなってしまったのか。
とはいえこれは重要な手がかりである。研究班が妖精と情報交換を行ったところ、妖精は先の大戦の記憶を持っていることが判明した。つまり深海棲艦も同様の情報を持っているということであり、これは戦場跡の海域に深海棲艦が多く出没することと無関係ではないだろう。そしてその記憶はどこに保持されていたのかと言えば妖精の構成要素そのものである。これにより、この素材の特性は単に物性を記憶して再現するだけではなく、ある程度の情報の記憶が可能であり、更にそれが集積して情報伝達構造を形成すれば演算・思考までも可能になるということが判明した。
妖精は人間と意思疎通が可能であり、少なくとも人間に対し害意が無いことが分かっている。これは本能のように人間を襲う深海棲艦の行動原理と矛盾しているように見えるが、そもそも妖精が持つ自我は深海棲艦の意思そのものではない。深海棲艦の組織から切り出した構成要素を元に形成された全く別のものである。ゆえに妖精に尋ねても深海棲艦の行動意図などが分かるわけではない。ただ、同じ戦争の記憶をベースに行動を起こしていることから、もしかすると「静かな海を取り戻したい」と願った結果の行動が海上を航行するものの抹殺という極端な方向に行ってしまったのではないかという仮説が妖精によって述べられている。
また、先の大戦から現在までかなりの年月が経っているにも拘らず何故最近になって突然活動が見られるようになったのかについても未だに判明していないが、年月の経過による積み重ねで何かの閾値を超えてしまったのではないかとする説が現在のところ有力である。
妖精は知能を持った存在ではあるが、たとえ深海棲艦を粉微塵にしてしまっても死ぬわけではない。というよりその時点で妖精の個体はまだ存在していないので、攻撃の際に遠慮する必要は無い。
人造深海棲艦開発計画の頓挫と計画修正について
妖精と深海棲艦の関係性を考えると、深海棲艦を説得したり人為的に制御したり、或いは人間の手で深海棲艦に相当する兵器を造ることも可能ではないかという考えに至るのは自然な発想である。
これはそれぞれ認可を受けて研究が進められているが、残念ながら今のところどれも実現の目処が立っていない。しかし結果として、深海棲艦に相当する兵器を造るという発想は正解に近かった。ただ、人間の手で作り人間が制御しようとこだわったところに発想の穴があった。つまり人間ではなく妖精が作って妖精が操作することは実は可能だった。これは知能や技術力ではなく存在としての特性の問題である。妖精は自身の構成要素と同じ物性記憶再現素材を物理的に曲げたり焼いたり溶かしたりするだけでなく、情報伝達による直接操作が可能だということだ。
特種害獣駆逐用自律戦闘機構、いわゆる艦娘について
研究班が妖精達と対話を進めた結果、人類と敵対せず友好関係を築きたい一方で深海棲艦と同類でもある妖精達としては深海棲艦の活動を看過することができず、妖精達自身も深海棲艦を何とかしたいという主張がまとまり、妖精は自ら腕を奮って対抗手段を構築することとなった。
まず単に戦闘能力だけを求めるなら深海棲艦の構造に戻ればいい。実際それは可能だったのだが、この形態では妖精自身にも制御が不可能なので単に敵が増えるだけだった。だったらその構造を応用して制御できる形態をとればいい、ということで研究班とプランを検討した結果、以下のような戦闘機構が構築された。
まず通常は手乗りサイズでひとまとまりとなっている妖精が多数寄り集まってより大きな個体となる。この妖精の集合体の大きさは深海棲艦とほぼ同じ、つまり人間とも同等であり、外見的、平常時物性的にはほぼ人間そのものである。これが戦闘機構の制御中枢となる。別の呼び方では重要防御区画、バイタルパートとも呼ばれる。深海棲艦と同等の力に振り回されず制御を確立するためにまずはっきりした自我を確立させるという方針であり、戦闘用の機能は全て外付けとした。実際のところ、「個人」としての形状・構造、そして人としての生活はそれに大きく寄与した。[2]
次に障壁装甲服。深海棲艦で言う物理障壁発生装置に該当するものであり、妖精の集合体が着た場合に限り軍艦装甲並みの強靭さを誇る物理障壁を展開する。見た目は普通の服であって、頭部や四肢など布が覆っていない部分が結構あるが、物理障壁にはある程度の範囲があり、バイタルパートを概ね隙間なく保護している。
この服には一種のセーフティー機能があり、機能を維持している限りはどんなに強力な攻撃であってもバイタルパートにダメージを貫通させず、装備部分に損傷の大部分を肩代わりさせる。その保護は服が破損しても一定時間は有効で、致命打が制御ブロックに届くことはない。この一定時間というのは1つの戦闘を夜戦を視野に入れて長く見積もった程度であり、つまり長時間の連続戦闘は危険なので、長引くようなら討ち漏らしは無視して戦闘を終わらせた方が良い。また、服が破損したまま次の戦闘に臨むと制御中枢にダメージを負って再起不能になる恐れがあるので大破進軍は推奨されない。
それから艤装。障壁装甲服の上から装着するものであり、海上機動・索敵・攻撃機能を中心とした各種機能が提供される。こちらもサイズは人間が保持できる程度でありながら軍艦並の速力と攻撃力を発揮する。艤装には各機能制御担当の妖精が数個体乗り込み、人型制御中枢の発令に従って戦闘行為を行う。
艤装は人間が背負うには随分重そうに見えるが、海上においては脚部推進装置だけでも海に接していれば全体に対して浮力が働く特殊機能が存在するため、上下方向の負担はほぼ無く、原理的には水面からの跳躍も可能である。しかし加速・減速・方向転換の際の慣性力は無視できないし、浮力が働かない陸上で背負って走るには大分無理がある。
更にオプションとして武装を追加したり索敵機能を強化したりセーフティー機能を増強したりすることは可能であるが、装着個所や乗り込める妖精の数には物理的限界があるため、必然的にオプション装備の携行数にも上限がある。
これらをひとまとめにした戦力単位を「艦娘」と呼称する。深海棲艦に対抗しうる戦力であり、同じ動力源を持つ対の概念である。
何故「娘」なのかと言えば、人型制御中枢が例外なく年若い女性の姿となるからである。ゆえに、人型制御中枢だけの状態でも慣例的には艦娘と呼ばれる。
艦娘の性能について
現在稼働状態にある駆逐艦型の艦娘は一見するとセーラー服を着て船体に該当するユニットを背負って手持ちの変形銃を装備した何かのコスプレのように見えるが、こう見えて海上移動速度は30ノット(=55.56km/h)を超え、砲撃では12.7cm連装砲相当、雷撃では61cm魚雷と同等の攻撃力があり、防御面でも物理障壁を展開して銃弾や戦車砲程度なら軽々はじくという恐るべき性能を持っている。歩兵サイズにして主力戦車を優に上回る戦闘能力であり、艦娘の原型である深海棲艦とも十分渡り合えるものである。
既存兵器に対する艦娘のアドバンテージについて
艦娘の最大の利点は、運用コストが格段に安いことである。例えば燃料だが、軍艦一隻を動かすのに必要な燃料と人間一人分程度を運ぶのに必要な燃料では文字通り桁が違う。また、艦娘の制御中枢が人型であることも利点である。人間と同じ生活空間において、普通の食事と部屋を提供するだけでほぼ自力で自身を維持できるのである。
総じて軍艦1隻+乗組員の維持費を自動二輪+特殊部隊隊員1人の維持費程度までコストダウンすることが可能となるほか、大掛かりな設備投資も必要なく、必要な時に自力で必要な装備を携行して現場に向かうことが可能となった。これが海上航路の安全維持に役立つことは間違いなく、艦娘運用のノウハウを確立することは急務である。
なお、艦娘はあくまで人類と妖精類の共存を前提として海上治安維持のために出動するものであり、他国の軍隊と交戦する用途は想定されていない。
オセロ機能について
艦娘には害獣駆逐以外にもう一つの役割がある。艦娘の増員である。通常の軍備で深海棲艦を撃退しても残骸を回収して専用の設備で精製しないと開発資材や妖精、艦娘に転用することが出来ないが、艦娘には機能停止した深海棲艦をその場で妖精化させる能力があり、更に妖精の種類と量が必要条件を満たせば集積されて艦娘となる。これはつまり妖精同様に物性記憶再現素材の塊である艦娘にとって、深海棲艦の残骸は開発資材と同じであり、妖精化や艦種指定のない艦娘化という単純命令であればその場で発令できるということだ。
我が研究班はこれをオセロ機能と呼んでいるが、商標に引っかかるために表に出すことができないこの名前には、裏の意味もある。つまり裏を返すと撃沈された艦娘は深海棲艦にとっての美味しい素材にほかならないわけで、その意味をよく考えて運用してもらいたい。
なお、後述する羅針盤との兼ね合いにより、作戦行動中に誕生した艦娘をそのまま戦闘に参加させることは推奨されない。
艦娘と装備の製造について
実際に建造された艦娘の第一号は駆逐艦吹雪である。その駆逐艦型吹雪という名前の艦娘は、先の大戦で海軍が使用した同じ名前の駆逐艦の記憶を持っている。実際にその実在艦に自我や記憶があったかどうかは怪しいところだが、少なくとも艦娘自身はそういう自覚を持っている。
ここで何故駆逐艦で何故吹雪なのかというのは当然の疑問だが、これはその時点で集まっていた妖精の種類による。先にも述べたが、妖精には種類がある。もう少し詳しく言うと、持っている記憶によって個性が出た結果、種類が分かれる。工廠で建造や開発を担当する妖精もいれば装備の制御を専門にしている妖精もいるし、制御担当の中でも砲手の妖精もいれば飛行士担当の妖精もいる。その種類の中に乗組員担当の妖精というのがいて、更にどの艦の乗組員なのかという細分類がある。つまりその時点で必要数集まっていたのが駆逐艦吹雪の乗組員担当妖精で、それらが集積合体した結果駆逐艦吹雪の人型制御中枢(艦娘)という形をなし、それに合わせて駆逐艦吹雪用の障壁装甲服と艤装が作られたというわけである。
参考までに、今回妖精の数が多く建造可能リストに挙がったのは駆逐艦吹雪、叢雲、漣、電、五月雨の5つである。吹雪を建造するには100%吹雪の妖精を集めなければならないわけではなく、人型制御中枢を構成する妖精のうち最大勢力が吹雪で、その割合が一定以上であればよい。通常の軍艦のようにある程度他の艦の乗組員妖精が混ざっていても何とかなるが、大半が別の艦の乗組員ではその艦をうまく操艦できないという理屈があるようだ。
そういった事情で、艦娘を建造する場合にどの艦ができるかというのは運の要素が大きく絡むことになる。ただ既に形が形成されている妖精やひと固まりの開発資材も様々な種類の妖精要素の集合体であることが分かっており、建造・開発の際に用いる資材の配分によってこれをある程度選別することが可能である。例えば空母や飛行士の妖精はボーキサイトに引き寄せられる特性があるので、艦娘建造や装備開発の際にこれを考慮すると、空母や艦載機がある程度の確率で出来上がる。しかしそれもある程度の指向性であって、歩留まりは非常に悪いので今のところ安定した量産の目処は立っていない。
その指向性検証の結果で正規空母赤城が1隻建造できており、データ取りが終わり次第実戦配備される予定となっている。
同一艦娘の重複とその運用について
艦娘はその製造工程の仕様上、同一艦の重複を避けられない。逆に言うと同一の艦が複数存在できるということであり、艦娘は同一名称の艦ごとに全く同じ容姿で誕生する。
重複した艦娘は誕生時点では同じ容姿で同じような記憶を持っているが、その後に蓄積される経験値が個別のもので記憶共有もしないため、結局のところ双子のように別個体としてそれぞれ存在する。
実戦運用において同一艦が同一艦隊に存在すると認識の混乱が発生し、自我の境界にも悪影響の可能性があるため、同一艦隊への配属は避けられるべきである。ただ、同一司令官の指揮下でも長時間同行することが無い別艦隊であればさほど影響は無い。
重複艦娘を鎮守府から除籍する場合、解体もしくは合成という選択肢がある。解体とはつまり妖精や資材のレベルまで分解して他の用途に使うということであり、建造に費やした資材が幾らか戻ってくる。合成というのは他の艦娘と同化してその個体の妖精純度を上げるということである。
解体の際、当人の希望がある場合には人型制御中枢部分までは解体せずそのまま残すということも可能であるが、その場合同じ容姿の人物が複数存在し続けることになるため、管理には注意が必要である。
どちらにしろ艦娘を無制限に増やしていっても収容することができず運用に支障をきたすため、ある程度数の管理は必要である。
艦娘の強化について
艦娘は人間と同様の調練、演習、実戦によってその技量を上げることが出来るほか、他の艦娘との同化により妖精の純度を上げることができる。ただしこれも純度が100%近くなるとそれ以上は能力が上がらなくなる。
他にもある程度の錬度条件をクリアすることで可能な改造という選択肢があり、これにより艦娘のポテンシャルを大きく引き上げることが可能である。これは元々は錬度が低い艦娘ではフルスペックで運用しても振り回されるだけなのである程度成長するまではリミッターをかけて慣れさせようという発想のもので、そのため全艦娘は錬度向上によって必ず1回は改造出来るようになっている。しかしその後、艦によっては2回以上の改造が可能であることが判明した。2回目の改造、いわゆる改二は、通常のフルスペックにかつての大戦の実戦経験や改修構想を上乗せしてスペック以上の実力を引き出すものである。これには錬度以外に何らかの条件を満たす必要があり、艦によって条件も違うので、条件が分かり次第現場司令官に通達するものとする。
艦娘の修復について
艦娘の殆どの部分は物性記憶再現素材により構成されているため、それを破損前の状態まで書き戻すことで修復が可能である。そのための自動修復設備は既に実用化の目処が立っている。ただし隅々まで履歴を書き戻すのにある程度の時間がかかり、特に錬度が高いと書き戻す情報が多くなるためにより多くの時間がかかるというのが難点である。それを大幅に短縮する高速修復材というものが別途存在するが、こちらは消耗品であるため資材以外のコストがかかるのがネックとなっており、平常時に乱用するのはお勧めできない。
同様の原理で入渠せずに少しずつ破損前の状態に戻す母港修理という機能も開発中であるが、こちらについては工作艦用の装備を用意する必要があり、まだ実用化に至っていない。
なお、バイタルパートに致命傷を負っている場合は制御中枢から完全な履歴を読み出せず、修復プロセスを実行できないことがある。これについてはバックアップがあれば助かる可能性もあるが、そもそも海底に沈んでしまっては入渠もできないので意味が無い。
ちなみに艦娘のバイタルパートには人間同様の医療行為が有効なので、帰還を待てないほどの損傷を負った場合はその場で応急処置を施すと良い。
羅針盤と退路確保について
艦娘の任務は戦争ではなく害獣の駆逐と海上安全確保だが、その害獣は軍艦と同等とみなせるほどの危険生物である。たとえ艦娘が相手に勝る戦力を持っていたとしても、多数に囲まれればあっさり沈んでしまうであろうことは戦史を見るまでもなく当たり前のことだ。失われるものは艦娘であり人間ではないのだが、扱う側から見ると失われるのが熟練の兵士であろうと熟練の艦娘であろうと同様に余計な育成コストがかかってしまうので、出来る限り喪失は避けるべきである。
そこで我が研究室は、妖精と共同で「羅針盤」を開発した。勿論これは従来の方位磁石機能を持ったそれとは全く別のものであり、艦娘艦隊の退路を確実に確保してくれる自動演算装置である。
使い方はというと、羅針盤に作戦目標と6隻以内の構成艦を登録して進軍すると、敵に囲まれずに進軍できるルートを自動計算して指し示す。これだけである。しかしこれに従うことで常に6隻以下の艦隊としか遭遇しないようになるので、効果は絶大である。
1つの羅針盤につき登録できる艦娘が6隻までという制限はその演算機能の限界によるもので、この登録が有効なのは出撃前に限る。作戦の途中で登録を変更すると再計算にかなりの時間がかかり、その間は危険に晒されることになるため、6隻未満で出発して途中で艦娘が増えたとしても追加登録は推奨できない。また、登録していない艦娘を戦闘に参加させても計算に狂いが生じるので、帰り着くまではただ随伴させておくのが妥当である。
羅針盤には作戦目標よりも上の最優先目標として生還が設定されており、どう進んでも囲まれてしまう場合は帰還ルートを自動的に示すようになっている。艦隊を指揮する提督からすると作戦目標をなかなか達成できなくて苛立つだろうが、戦力喪失の危険を避けたいならばどうか有効に活用してもらいたい。幸い、現在のところ深海棲艦が陸の居住地に侵攻してきた例は無く、殆どの場合は帰りつきさえすればやり直しがきくはずだ。
なお、羅針盤が比較的手薄な航路を指し示すとはいえ、手ひどいダメージを受けたまま無理に進軍した場合の結果までは保証してくれない。退き際を見誤らないことが重要である。撤退さえ決意すれば羅針盤は撤退用の航路を指し示してくれるだろう。撤退する場合の手順も簡単で、戦闘終了後に撤退モードに切り替えるだけで羅針盤が退路を示してくれる。戦闘中にはこのモードへの切り替えは不可能なので重々注意されたい。
戦闘が長引いた場合も状況が変化して包囲される危険があるので、1回の遭遇戦にあまり時間をかけずに残存艦は無視して進軍することをお勧めする。これは障壁装甲服のセーフティー有効時間とも関連する。
当研究班では引き続き羅針盤の運用法を研究しており、もう暫くすると羅針盤2つを使った最大12隻の連合艦隊の編成運用が可能になる見通しが立っている。
更にその2つの羅針盤の余剰演算能力を利用する艦隊司令部施設というオプションを開発中であり、これを用いると損傷した一部の艦に護衛をつけて安全に退避させることが可能になる。
艦娘運用鎮守府の設立について
艦娘を運用するには艦娘用の鎮守府施設が必要である。とはいえ基本は人型形態なので大掛かりな設備は必要なく、入渠設備や開発設備が揃い次第運用を開始して構わない。
艦娘は通常の軍艦に比べると極めてローコストで運用可能であるが、それでも幾らかの資源が必要である。鎮守府に資源搬送ラインを引きこれを通じて随時資源を送るよう整えているが、海外からの資源輸送が限られる中で複数の鎮守府の設立を予定しているため、潤沢な資源の供給は保証できない。しかしそもそも航路の安全確保は艦娘を擁する鎮守府の基本業務であり、輸送船団の護衛任務などを積極的にこなしてもらえれば供給量に良い影響があることは言うまでもない。
鎮守府設立の第1予定地は横須賀であり、その運用において問題点を洗い出した後で呉、佐世保、舞鶴などにも順次設置予定となっている。
ところで鎮守府に必要なものがもう一つある。それは提督である。
艦娘運用鎮守府の業務は戦争ではないし、艦娘だけでも戦えないことはないが、軍艦としての自覚を持つ艦娘達は本能的に提督の指示を仰ぐ。何より艦娘に勝手に戦わせて人間がノータッチではそれは無責任というもので、艦娘のメンタルが人間と同等ならば完全に野放しにすると離反される恐れが無いとも言えない。
ゆえに鎮守府には提督が着任しなければならないのである。
設定考証:特種害獣駆逐用自律戦闘機構とその運用について への2件のフィードバック