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用語

侵食性男性因子喪失症候群

特徴

特に遺伝子疾患などもない正常な男性が遺伝子・身体構造とも女性になってしまう奇病。その変化の結果だけを見て、俗にTS病、女体化病、性転換病などと呼ばれることもある。こう称するとある種の人間には願ってもない病気のように思えるが、その実態は悪性腫瘍に類似した後天性遺伝子異常の病気であるため、最悪死亡するリスクがある。しかも容姿や身体能力についてもどうなるかは運任せなので、わざわざ望んで罹るような病気ではない。また、罹患症例が非常に少ないため、そもそも一般に知られていない。
侵食性男性因子喪失症候群は侵食性変異症候群(遺伝子の突然変異とその侵食による身体形状変化)の一種で、中でも男性から女性への変化を伴うもの、と定義される。多くの場合は同時に細胞寿命の無制限化を伴うが、どちらにしろ安定期まで持っていくには、生命や人格の維持に関わる重篤な症状を経ることは避けられないと見られており、2011年3月現在までのところ例外は無い。
侵食性男性因子喪失症候群では、男が女になるのであって、その逆は無い。そもそも性別が変わるという症状の根本原因は、細胞分裂の際の遺伝子の突然変異で本来あるべきY染色体が欠落して、なおかつその部位がX染色体のコピーで代替されることであるとされている。つまりこれが男性因子の喪失であり、こうしてXYがXXになり遺伝子上の性別変化が発生するため、元々XX構成の女性がどこからかY染色体を得てXYの男性に変化することは原理的にあり得ないというわけである。また、XYからの突然変異で逆にYYの対になる可能性があり、この場合侵食性女性因子喪失症候群と呼ばれる。しかしY染色体だけの構成では人体の基本情報として致命的な不足が生じ、侵食を放っておけば必要な遺伝子情報が失われて例外なく重篤な障害を引き起こす。このため、侵食性女性因子喪失症候群では細胞性質の良性・悪性に関わらず早急な治療が必要となる。
侵食性男性因子喪失症候群は、早期治療においては悪性腫瘍に対するそれと同様の方法論で行うことができるが、症状が進行するほど治療が難しくなり、転換期を過ぎると元の状態に戻すことはまず不可能と見られている。また、潜伏期~侵食期において変異細胞が悪性化した場合、転換期に移行する前に悪性腫瘍として発症するため、非常に危険である。
侵食性男性因子喪失症候群の症例研究は寿命や性別のコントロールという点において非常に有用とされているが、発症例はきわめて少なく、2011年3月の時点で症状が確認されているのは故人を含めても全世界で42名。このうち侵食期までに悪性化せずに転換期に至ったのは8名、そのまま死亡せずに安定期に至ったのは3名、最終的に何の障害もないのはわずか1名にすぎない。
侵食性男性因子喪失症候群により女性化した場合に正常な妊娠・出産は可能なのか、また寿命無制限などの特徴は次世代に遺伝するのか、結論が待たれるところである。

進行と症状推移

1.発生期:
細胞分裂の際にY染色体が欠落し、代わりにX染色体のコピーが配置された女性型突然変異細胞が発生。発生は偶発的かつ極めて稀であり、確実に発生させるような条件は判明していない。
2.潜伏期:
正常なアポトーシス作用により大半の女性型変異細胞が駆逐される。しかし稀にp53遺伝子の状態などが原因でアポトーシスを免れ生き残る場合がある。こうして生き残った変異細胞が分裂過程でテロメラーゼ活性を得ると、分裂の限界が無くなるため爆発的に勢力を伸ばし始める。つまりこの時点で「性染色体異常」「p53遺伝子異常」「寿命異常」の3つが備わっていることになる。ゆえに、この変異細胞は性質上ほぼ腫瘍細胞のようなものであり、大半の場合は実際に悪性腫瘍細胞としての特性を示すが、稀に細胞として正常な機能性と適切な分化度を保っている場合がある。これを良性の突然変異細胞と称する。良性の変異細胞は遺伝子情報が通常と異なるという理由で自殺に至ることはないが、それ以外の殆どの制御を受け付けるので、悪性腫瘍と違って殺しても死なないわけではない。
この段階までは変異細胞の絶対数が少ないため、まだ自覚症状がない。
3.侵食期:
テロメラーゼ活性を得た変異細胞が通常細胞と混ざり合って水面下で勢力を拡大。全体のバランスを調節するために増えすぎた細胞の淘汰が始まるが、寿命の差から徐々に正常細胞が減り始める。
変異細胞が悪性の場合、この時点で悪性腫瘍の初期症状がちらほらと現れ始める。こちらは通常の悪性腫瘍として扱うため、以降本項では説明しない。
変異細胞が良性であった場合、あからさまな体調不良はまだなく、徐々に細胞の合計代謝量が上昇していくため、通常の食事量では空腹に苛まされるようになる。
4.転換期:
勢力を伸ばした変異細胞が脳や脊髄などの基幹組織を侵食して乗っ取る。これにより身体全体の総合的な管理方針が変わるためホルモンバランスが急激に変わり、変異細胞に記された遺伝情報に基づく身体構造へと再構成が始まる。新しい遺伝子情報には男性生殖器官に関するものが存在しないため、これは不要組織として淘汰され、組織が退化する。その代わりに女性生殖器官の形成が始まる。体型も骨格レベルで女性的になり、腰周りが出産に耐えられる形状に変化する他、個人差はあるものの乳房が膨らんで乳腺が発達する。体型変化に伴い、身長・体重は概ね縮小方向に向かう。男性特有の体毛の成長が止まり、不要物として抜け落ちる。ただし頭髪に関しては成長が促進され、短期間に急激に伸びるばかりか、極端な例では禿が治ったなどという症例が報告されている。
基幹組織の乗っ取りが始まるあたりで、免疫機能の異常活性により体温が急激に上昇する。この発熱はえてして程度が重く、舌下計測体温が40℃を超えることも珍しくない。大本の発生部位と脳を侵食し始めるタイミングによるが、短くて1日、長くて1週間程度の間、この発熱症状が続く。これに伴い意識の混濁、昏睡などの症状が見られ、これらの影響により多くの場合人格や記憶に障害が発生し、医療機関で適切な処置を受けないと殆どの場合死に至る。また、そもそも脳細胞が新しく入れ替わっているので発熱如何によらず記憶や人格の保持は不可能であるという見解がこれまで主流だったが、実際に記憶や人格を保持したまま転換期を終えた症例が確認されたことでこの見解は覆されることとなった。
なお、体型が縮小するにあたって、必然的にその体重差分だけ体外に汗や垢といった形で老廃物が排出されるのだが、この時期に本人の意識が無い場合が殆どであるため、適切な看護が無いと目も当てられない状態になる。
5.安定期:
大半の細胞の入れ替えが完了すると、正常細胞の淘汰と増殖が平衡状態になり、そのまましばらく共存が続くものの、寿命に限界のある正常細胞は分裂寿命を終えた細胞組織から緩やかに死滅していく。新たに全身を構成することになる変異細胞では、恒常的なテロメラーゼ酵素の活性により細胞分裂の際のテロメア短縮が無くなる。つまり何度分裂してもヘイフリック限界に達しないため、細胞レベルで寿命が無制限になる。テロメラーゼの発生により腫瘍細胞が無限寿命を得て悪性化する危険性があるが、定着した変異細胞が悪性腫瘍細胞を上回る抵抗力を持っているため発生と淘汰が平衡し、容易に腫瘍組織が広がることはない。代謝量は体重あたりの標準代謝量の倍程度に達したところで安定する。免疫力や回復力が非常に強くなるが、強すぎるゆえに通常の薬品が効かない場合がある。
各組織が旧正常細胞の駆逐を終えて通常運転を始めるため、体調不良は沈静化する。

転換後生存患者例

転換期に致死レベルの高熱と様々な体調不良を伴うため、必然的に生存者はある程度救急・医療設備が整った国にしかいない。
現在のところ、生存例として記録が残っているのは以下に挙げる3名のみである。

Adolf Steinberg(アドルフ・シュタインベルク)→転換後Adelheid Steinberg(アーデルハイド・シュタインベルク)に改名
発症時期 1971年7月
発症年齢 21歳
国籍 ドイツ民主共和国(東ドイツ)
担当医 Karl-Heinz Burger(カールハインツ・ビュルガー)

現在までに確認されている限り、初の転換後生存者。
記憶・人格を喪失。
重度の脳障害により、再度知能を得るに至らず。
脳組織以外の身体構造は正常。
転換後の老化症状が確認されている。
当時テロメラーゼ酵素が未発見であったため、ある時期を境に活性が止まったのか、最初から活性化していなかったのかは定かではない。
転換後、1989年に死亡するまで研究機関の監視下に置かれていた。
1989年に交通事故により死去したと記録されている。ただし担当のビュルガー医師もこの事故に居合わせ、死亡している。西側の手に渡る前に口封じのため殺害されたという見解が現在では主流である。
また、死因以外にも研究報告書に事実と一致しない部分が認められることを理由として、実は脳障害は無かったのではないかという意見もあるが、それも今となっては確認する術がない。

George Nothenlight(ジョージ・ノーザンライト)→転換後Gene Nothenlight(ジーン・ノーザンライト)に改名
発症時期 1996年12月
発症年齢 44歳
国籍 アメリカ合衆国
担当医 Jonathan McMillan(ジョナサン・マクミラン)

記憶・人格を喪失。
脳障害は軽度で、左脚が若干不自由である以外に異常は確認されていない。歩行困難のため杖を常用。
テロメラーゼの恒常活性が確認されており、外見は20歳前後を維持している。発症前のジョージは若禿で生え際が頭頂付近まで後退していたが、転換期の再構成によって禿が治っている。
ジョージは発症時点で既婚であり、人格喪失後に妻であるナンシー・ノーザンライトの全面的な協力で教育を一からやり直している。その甲斐あり、2010年現在で小学生程度の知能まで回復し、社会復帰の道が見え始めている。回復とは言うものの、実際は更地に新しく家を建てなおしているようなもので、発症以前の記憶に関しては全く復旧の目途が立っていない。妻のことも思い出せず、今や夫婦というよりは母と娘のような関係になっている。
貴重な生存症例のため、保護を名目に世界保健機関の監視下に置かれ、行動に幾許かの制限を受けている。また、体調管理と経過調査を兼ねて定期的に検査を受け、血液や細胞の提供を行っている。

松下 響(まつした ひびき)→転換後名称変更なし
発症時期 2010年6月
発症年齢 33歳
国籍 日本国
担当医 二階堂 信長(にかいどう のぶなが)

記憶や人格の損傷がなく、多少の記憶の混乱を除き脳・身体とも全く異常なしという初の症例。
何故障害を避けられたかについては今なお議論の渦中となっているが、救急隊員が現場で適切な処置を行ったことと、救急担当病院の医師に侵食性男性因子喪失症候群についての正しい知識があったことがまず挙げられる。
テロメラーゼの恒常活性が確認されており、発症後の外見は20歳前後となっている。
頭髪は発症前は黒だったが、発症後に伸びた部分は色が抜けて亜麻色になっている。また、再構成時に髪が221mm伸びたと記録されている。

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